学校について
S駅からM駅につなぐ、5つの定時制高校の閉校とともに、高校が開校されたことは、大きな期待が込められていることを感じた。
校長の「来る者は拒まず」の言葉の一方、中退者減少のための努力に尽くしたいと言われる言葉を心強く思った。
昼夜間三部制・単位制・定時制高校である高校は、現在の定時制高校における現実、生徒が、不登校であったり、学力的、精神的、あるいは情緒面の未熟さをもっていたり、集団生活、基本的生活に対応出来ない状況をもっていたり、仕事を持ちながら勉強したいと願う者の受け入れ場所であったり、と、それぞれの事情を踏まえ、新しい形態の生徒の受け入れ校として、時代の必至なのだという思いをもった。
現在、O高校定時制、M高校定時制の生徒も同じ校舎で勉学に励まれている。本来、卒業まで、自分達の学校へ通いたいという気持ちをもたれていたであろう。
大人の都合に振り回されるのは、いつも、弱い子どもたちであることを、私たちは忘れてはならないと思う。孤立感のないよう、卒業まで、しっかりと、新生された高校の学び舎に共に学ぶ仲間として扱ってもらいたいと感じた。
授業について
副校長がすべての授業を案内しながら説明をしてくださり、生徒の姿や、授業の取り組み方が、大変、よく見えて感謝している。
生徒の現状に合わせ、英語数学に関しては、定時制の定員1学級30名をさらに、2あるいは3クラスに習熟度別に分けての授業をしており、欠席等も多いからであろうが、6〜8人に向け、中学でのつまずいている場所からの、学び直しを念頭に置いた授業が行なわれており、多くの生徒にとって、中学時代の落ちこぼれ意識を払拭させ、自信を持たせる場につながっているのではないかと感じた。
その一方で、欲を言わせてもらえば、学力的に、あるいは授業を受ける態度の良好な生徒にとって、もう少し、上級の学習環境を受ける機会があれば、多種多様な生徒の集まる学校だけに、個々の居場所、居心地の良い学校となるのではないかと感じた。
授業中に教室から出てしまう生徒に「トイレに行くなら、1分間で戻りなさい」と、個別支援の必要な生徒へかける言葉として、大変、的確な言葉がけをしており、個々の生徒の名前をしっかりと呼びながら授業をされている様子に、好感がもてた。
また、英語のクラスでは、ALTと英語教諭の2人で8人(欠席の生徒もおり、本来はもう少し、人数がいるのであろうが)の生徒を見るという、他の高校では不可能であろう、大変、恵まれた環境であり、だからこそ、この場を生かして、学びの喜びを身につけて、進学、社会へのスタートへの一歩につなげてもらいたいと思った。
また、講師の都合で休講であったが「演劇入門」や、参観させていただいたフリーのアニメーターによる「アニメーション基礎」など、学校側で生徒の興味ある講師を招くためのご努力と、その意欲ある思いは、今後も続けてもらいたいと思った。
他の都立高校の存在意義と、定時制高校の存在意義とは、教育の根は同じではある。しかし、公立中学校の中で、あるいは家庭の中での自分の居場所の確保が困難で、安心出来る場のない生徒が、この高校に安心と未来への希望を求めて、集まってきているように感じた。
高校の先生がたが、中学の学習(あるいは、小学校まで戻ることの必要な生徒もいるのかもしれない)を教えるということは、本来、不本意であるのかもしれないが、「学び直し」「躾け直し」「仲間といる安心」「仲間同士で許す気持ち」そういうものを身につけさせるために、時間を遡りながら学習の支援をされている姿に、頭の下がる思いがした。
蛇足だが、教室に遅刻表が貼られていた。出席日数の不足による中退者の減少を促す意味でも、先生がたの取り組みとして、個々の生徒に意識づけをさせるための、地道な取り組みが伺えた。
進路指導、施設、地域について
施設については、校舎はL字型で行き来しやすく、改築して清潔感があり、学習環境として大変、適している。
校庭が早期に使用出来るようになると、体育の授業も、行事も充実したものができるであろう。
体育館は老朽化しているが、今後、改築とのこと。広さが充分確保されているので、改築後は、学校施設として、また、地域の避難場所としても大切な拠点となると予想される。
残念なことに、教室の床に噛み捨てたガムがあり踏んでしまった。
私は、過去の東京都立高等学校の卒業で、都立高校にはお世話になったが、当時、私の通う都立高校にも定時制があり、先生がたが「この校舎、教室は、君たちだけが使うものではない。夜間は定時制の生徒が使い、君たちが卒業した後は、新しく入学する生徒が使う公共のものだ。だから、大切に残し、つなぐ役目をするのが君たちだ」との言葉をかけてくれた。
この高校は、現在、いながらにして、三部制という時間毎に教室を共有し、O高校定時制、M高校定時制とも共存している。それを、校舎が狭い、教室の取り合い〜という間借り意識ではなく、互いに譲り合い、共有し合うという素晴らしい体験をしているのだと、生徒達に感じさせる気持ちをもつことのできる指導を期待している。
世の中は、「私」と「公」の中で、互いに(いい意味で)凭れ合い、助け合いの中で成り立っている。偏った「私」ばかりの優先でない「公」の意識の欠如が、世の中の殺伐とした空気を生み出しているように感じる。
進路については、ようやく1年が過ぎ、2年目という中で、現在、抱えている生徒の現実の対応で精一杯であるということは、充分に理解できる。
しかし、生徒にとって、卒業後、どう生きていくか〜ということが、とても大切なことである。ニート、就職しても短期間での職からの離脱、進学しても中退など、この高校だけでなく、都立高校全体としても、日本の未来について、真剣に取り組むべき課題であると思う。
学校の中で、進学志望、就職志望、さらに、専門の職種・技能を身につけたいと思う種々雑多な生徒の将来についてのビジョンについても、指針を固めておくことは、「目の前の生徒の現状第一」であっても、日和見で、その場その場で解決する次元の問題ではないと思う。
今後、生徒の進路について、より具体化した取り組みが求められてくると予想される。
地域との関わりについては、開校前から、制服を標準服に…というように、話し合いの場を設け、地域の意見も取り入れている学校側の努力が伺える。
また、地域としても、この高校の存在が東京都の都立学校において重要な役割を持つということを理解し、地域名を残す思いがあったのだろうと感じる。
新設校であるので、今後、時間をかけながら、地域からも誇りをもたれるような高等学校となることを、心から期待している。
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