女の嫉妬はおそろしい!
左衛門の内侍といふ人はべり。あやしうすずろによからず思ひけるも、え知りはべらぬ心うきしりうごとの、おほう聞こえはべりし。
うちの上の、源氏の物語、人によませたまひつつ聞こしめしけるに、「この人は、日本紀をこそ読みたるべけれ。まことに才あるべし」と、のたまわせけるを、ふと推しはかりに、「いみじうなむ才がる」と、殿上人などにいひちらして、日本紀の御局とぞつけたりける。いとをかしくぞはべる。このふるさとの女の前にてだにつつみはべるものを、さる所にて、才さかし出ではべらむよ。
左衛門の内侍とは
内裏の女房で掌侍橘隆子かと言われるが未詳。
左衛門の内侍とか言うヒトは
わけもなく私を快く思っていなくて
心当たりのない嫌な陰口を言うのですわ。
(と、嘆くふりを装って憤っていたのでしょうねえ)←心の声
一条天皇が『源氏の物語』を
人に読ませてお聞きになっていらっしゃると
「この人(紫式部)ったら
日本紀(漢文で書かれた六国史)とか
えっらそうなもんばかり読んじゃってさ〜。
まったく、お偉い才能ねえ〜」
「学問を鼻にかけてるのね〜」
なんて、内侍が、周りの者に、おっしゃって
日本紀の局なんて、あだなをつけたのです
(と、怒りを隠しながら憐れむ姿)←心の声
私(紫式部)なんて、実家の召使の女達の前でさえ
慎んでいるというのに、このような所で
学識をひけらかすようなことは
いたしませんことよ
(私、慎み深い女ですもの〜とアピール)←心の声
紫式部は、おそらく、もっと
高貴な御筆でお書きになったことでしょうが
清少納言が、端から
「学問を知らぬ人間は困ったこと〜(冷笑)」
と
バカな者は馬鹿なのだ
と、ハッキリと申し上げるに比べ
奥ゆかしさをアピールしながらも
痛烈な批判を心に秘め
それを、随筆でも日記でもなく
紛れ込んじまった手紙(私信)が
読まれちゃったのね〜と
その手腕も、賢い方法であると思われます。
紫式部は賢い女性だと思いますね〜
とは、教授の言葉。
女性から見ると、清少納言のように
「だって、私が賢いのは事実だし
男性だって、自分と対等に話のできる女性を
好むに決まっているじゃないの」
という、あからさまな女性の方が小気味良いらしい。
我が家の『源氏物語』フリークの
(というより『あさきゆめみし』ファン)
中学生も、紫式部より清小納言派である。
紫式部は、お腹にものを溜めた女性と
捉えられることが多いのだが
リアル世界で、嫉妬の末に言葉を介して
意地悪をする人間を快く思わないのは
誰とて感じるものでありましょう。
実際に、私なんぞや〜と言いながら
そっと自分磨きを重ね
『源氏物語』や、『紫式部日記』の中で
筆を使った、我が心を表す才能は
やはり、ただ者とは呼べないと思われます。
そして、恋多き和泉式部や清少納言と比べ
紫式部という人は、自らを律し
今よりもっと〜という
向上心をもった女性だったのではないかと思うのです。
私は大したものではないのです〜
だから、もっともっと
自分を高める努力を怠らぬようにしなければ…
と、「おゆかしき」人のように思います。
「おくゆかし」
ものごとの奥に隠れているものに心惹かれる感じ。
さらに奥のものが知りたい。
もっと見たい、聞きたい、そして
知りたいという意味。
それにしても、「お上」である天皇さえも
『源氏物語』を楽しみにしていらっしゃるのですね。
この場面でも、『源氏物語』千年紀の根拠となっています。
中宮に御仕えする女房達というのは
それだけで、ステイタスであるわけですが
その中において、この時代
紫式部、清少納言、和泉式部、赤染衛門など
それぞれ権力をもつ女性に仕える
学識ある女性達は、その宮様のために
自分の才を発揮していました。
派閥を持ち、強さを持った女性というのは
怖いものです。
その怖さの中で、生まれ出た『源氏物語』
女というものは、変わらない生き物であると感じます。
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