包丁 を持ち出した。
俺を 殺してくれ!
そう言って、
お腹に包丁を当てるフリ。
おそらく、ひと月前の私なら
「やめて〜!」
と 悲痛な声をあげ、
逆に 刺されていたかもしれない。
「嫌だよ。
そんなつまんない人間のために 罪を犯すなんて、
真っ平 ごめんだわ」
そう 答えると
「いいんだな。
俺なんか死んでくれ!
って思ってるんだろう。
死んだ方が いいんだろ」
「別に。
死んでくれなんて 言ってないでしょ。
なんでも、 いちいち 聞くのは やめてよ。
どうぞ、
したいことを してください って 言ったでしょ。
ねえねえ。
ボクちん、 おトイレ 入っていい?
ボクちんのお尻拭いてよ〜。
ボクちん ボクちん〜。
そんな風に、
いちいち 聞かないでくれる?
死にたいなら、
勝手にすればいい。
そんなこと、
自分で 決めてよ」
「じゃあ。死ぬからな」
と、 手首に包丁を当てる。
そんなんじゃ、
死なないと思うけどな。
「本気で 死にたいなんて 思ったこと無いだろう」
「否、
死にたいなんて、
何度も思ったわ。
でも、
いちいち、
そんな狂言じみたことはしない。
みっともない!
私は、そんな みっともないことはしない。
死にたいって思ったって、
そんなこと、
人に言わない。
涙だって、
人前では 見せないわよ」
「ふん! アンタって本当に強いんだな」
がっかりするね。
その言葉…
まあ、どうでもいいけど。
「昨日、3人で出かけてさ。
俺のこと誘ってくれなかったじゃないか」
「ずっと、歩いてたんだよ。
洋服1枚買うのに、5時間も歩いたら
「いい加減にしろよ。 服なんてどうでもいい。 さっさと決めろよ」
絶対に、
そう言うでしょ。
だから、
やりたくないことに つきあわなくていいの。
嫌々、ついて来られても、
逆に迷惑よ。
私は ピカソ展に行きたいって言っても
誰も行きたくないって言うから
じゃあ、
私、
一人で 行くね…
それで いいじゃない。
あなたにも、
そう言ってるじゃない。
私は 雪祭りが 見たかった。
でも、
あなたたちが 会社や学校があるから、
私は 行かなかった。
だから、
行きたいと思ったら、
これからは、
私は、
そうする!
無理しなくていいんだよ。
したいことをして、
やれないことは 仕方ない。
それで いいじゃない」
結局、 包丁 は仕舞った。
「じゃあ。 通帳を 出せよ!
これまでの給料を 何に使ったのか 明細を 全部出せ!」
「そんなこと わからないよ。
入ってきたら 通過していくんだもの」
拳固にした手で 床をガンガン叩く。
「畜生!
俺の18年間は なんだったんだ!
家族なのに 自分だけ 話もしない。
ただ、給料を運ぶだけ。
そんなの生き地獄だ!」
(他所の夫も子どももいる 50近い女に入れあげてる男と(それが父親だったら なおさら) 誰が話したいんだ?)
そして、拳固で床を叩きながら
「生き地獄だ! 生き字引だ! 生き字引だ!」
と、繰り返す。
「生き地獄… でしょ」
あまりに、
マヌケで 笑いそうだった。
しかも、
手を真っ赤にしながら 床を叩くなんて
本当に 馬鹿馬鹿しいこと。
それにしても
そんな狂言を、
よくできるな〜と呆れる。
「眠いから、
寝かせて〜 と言っても、
寝かせないのは あなた。
自分が 眠れないからって、
私を 巻き添えにしないで。
いいじゃない。
何時だって 電話でも、
メールでも してね。
可愛いボクちんのために、
私は いつでも 待ってる。
そういう人が いるのだから。
悪いけど、
私は 眠かったら、
あなたには つきあえない。
いいじゃない。
もう、 そういう人が いるんだから。
こっちの オモチャも、
あっちの オモチャも ほしいよ〜。
ボクちん、
両方買ってくれないと ヤダヤダ! じゃあ
ただの、
駄々っ子と 同じでしょ。
悪いけど、
そういうのには 付き合いきれないから。
どうぞ、
そうやっても 許される存在に
慰めてもらったら?」
40過ぎて 包丁を持ち出す男を 他人は どう見るのだろう。
「自分じゃ、死ねないから殺してくれ」
って
やっぱり、
自分の尻を 自分で拭けないヒトなんだな
と思った。
自分の部屋が無いから、
自分の居場所がないのだと 言うから
小さな子の部屋を、
明け渡した。
「そこに居場所を 作ったのだから、
自分が 居場所が無いと 言ったのだから
そこに 居ればいいじゃない」
結局。
子どもが
パパと話したくないということには、
理由が ある。
場所を作ればいいってものでは ない。
居場所には、
愛情が必要で
彼は、
自分から 愛情を与えることを 知らない。
与えられることが
当然で
自分が 与えることを、
ケチ臭く 惜しむ人間。
だから、
もう、 嫌なのだ。
愛情を 惜しむようなヒトと、
誰が 好き好んで 一緒にいるのか。
「もう、俺とは 一緒に居たくないんだな」
返事をせずに、
私は テーブルを 拭く。
包丁 で、
刺されていたら、
ちょっと、
サスペンスになったかな?
ああ。 眠い。
お時間ございます方は、
過COノCO途 にある The Way We Were – 追憶 の
拙文を お読みいただけましたら 幸いです。
特に 過去の自分 を テーマに記した 拙文については こちら を ご高覧いただけましたら幸いです。
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